Santaのかわいそうな恋。

Santaは一時期、Sepilokにあるレストランで働いているフィリピン人の女の子に淡い感情を抱いていた。夕方森でのField workから帰ってくると、颯爽と水浴びして自転車でレストランに向かう。

いいね、Santa彼女がいるみたいだね。と、私とAnisはからかっていた。

そんなSantaの幸せな時期が、一ヶ月ほど続いた。普段は、静かなSantaがこの時期は心なしか生き生きしていた。そんなときに突然、不法移民政策の手がSepilokに延びたのである。摘発はあっという間だった。Sepilokのレストランやホステルで働いているフィリピン人、14,15人、そして彼らを雇っていた店主達が2日のうちにSepilokから連れて行かれた。そしてその中には、Santaの彼女も彼女の母親も、いた。

すっかり日も暮れた夜9時。宿舎の私の部屋のドアをたたいたのは、Santaだった。とりあえず、飲みたい、という。飲み始めて、しばらくして、何が起こったかを話し始めた。店主達は、雇用していた不法移民者1人頭10000RM(約30万)という罰金を払って、早々警察署から出てくるが、不法移民者たちは、警察署にてフィリピンに強制送還されるのを待っている。しかし500RMの保釈金で、一時的に釈放される。500RM, 約2万円弱、恋人が警察に捕まったときに、Sepilokの男の子にとって、高いのか、安いのか。私は、500RMを貸すことをSantaに申し出たけれども、Santaは、断った。
’一回警察署から出ても、正式な労働許可書を得れない限り、また同じことの繰り返しだから。’
そして、持っているお酒のグラスを空にした。

Santaは、彼女について、ほとんど知らなかった。彼女の家族についても、どういう経緯で母と二人でSepilokのレストランで働くようになったのかも、知らなかった。きっと、彼女にもLatipの幼少の頃のように、辛い過去があるのかも知れない。そういうことを尋ねなかったから、成り立つ恋だったのか、と思う。

しばらくの間、Santaは仕事をしていても抜け殻のようだった。
’Santa, フィリピンにいったら。それで、彼女を探したら? ゾンボアンガまでのフェリー代、だすよ。’
私は本気交じりに言ったあと、母がすでに亡くなっているSantaには、面倒を見なきゃいけない弟、妹が4人もSepilokにいるんだった、と思った。Santaは、静かに微笑んだだけだった。

時間は、いつの間にか過ぎていった。そして、時間が過ぎるとともに、彼の心の中の傷も小さくなっていった。

31/10/2003