折り紙があると、


去年は、病院にいる時間が長い年でした。病院というところは、なんだかんだいって待たされます。特に病人ではなく付添い人だった私は、長い待ち時間の間に、ふと折り紙をはじめるようになりました。読書ほど、頭がのめりこまなくてもいい、でも手先を動かしているので、不思議な安心感があって、5分、10分の間に、鳥や、花や、象が作れる、折り紙の実はとても深いその世界に、私ははまっていくようになりました。

Origamiという言葉は、世界各国でそのまま使われています。70-80年代に、天才的折り紙作家、吉沢あきらが、その普及のために世界各国を訪問したときから、折り紙は世界の色んな国で人々に行われるようになりました。現在、折り紙愛好家達の集まりは、日本のみならず
アメリカイギリスドイツオーストリアスウェーデンイタリアスペインポーランド ロシア 香港 韓国 と世界中に存在します。


そして今年の初旬、その時私はAberdeenにいたのですが、BOS(British Origami Society)のHPを見ていて、折り紙コンベンションが4月にイングランドのレスターという街で行われることを知ったのでした。

実は、私は去年の夏に日本折紙学会(日本折紙探偵団)のコンベンションに参加していて、それは350人も人が集まる盛況なものでした。70歳を越えるおじいちゃんから、お母さんに付き添われてくる10歳にも満たない折紙少年まで。(こういう場合、折紙教室で折り方がわからず、困っているのは大概お母さんの方なのですが。)外国から招待されてきた折紙作家(Jason Kuさん, USA, Nick Robinsonさん UK)や日本の折紙作家達。コンベンションでは難易度別の折紙教室が開かれ、私は宮島登さんの'犬'や、Dave Brillさんの'ますBox'を習うことができました。また、Martin Liuさんの'星'の折紙教室では、ボランティアで彼の通訳をしてきました。さらに、羽鳥公士郎さんから、彼が折紙専門のキュレーターとしてアメリカの美術館で働いていたことなどをお聞きしました。

「折紙の世界がこんなに深いとは知らなかった。」
驚くと同時に、折紙に対する熱意に火がついた瞬間でした。

ですから、BOSのコンベンションがあることを知ってすぐ、私は鶴の折り方も定かでない相方を説得し、即レスターへ行くためのチケットを買いました。そして4月最初の週末に、胸弾ませてBOSのコンベンションに参加してきたのでした。

どんな風だったか、というのを語る前に、レスターについて少しお話します。レスターという街は、イギリスの中では珍しく、インドパキスタン系の移民が人口の40%にも達する街です。このインド系移民の大部分が、ウガンダから移民してきた人々です。元イギリス植民地だったウガンダでは、高等教育を受けたインド人(インドもイギリスの植民地です)が政治的経済的に重要な仕事を独占していました。ところが、ウガンダが独立を得たときに、今までのインド人に対する反発が形となってインド人達は国外退去を強いられます。その人々の多くがレスターに移民してきました。(ウガンダに住んでいたインド人達は、イギリスの市民権を持っていたから、国外退去になった責任をイギリスに求めることができたんですね。)

そのため、レスターの街は、歩いているとインド、パキスタン人、そのハーフ、クォーターの素晴らしく美しい人達とすれ違います。また、インドレストランやサリーを売っているお店もたくさん会って、街を流れている雰囲気が一味も二味も違うのです。そんな街レスターのレスター大学、コンベンションホールにて4月8日BOSのコンベンションははじまりました。

参加人数は、約70人ほど。日本のコンベンションよりやや小柄です。コンベンションの構成は、日本の物と同じで難易度別の折紙教室が土日にかけていくつも行われます。その中で特に印象的だったのは、Mark の'顔'とRavi Apteさんの'あじさい折り'でした。

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モアイみたいな、仏様みたいな顔が、一枚の紙にシンプルな山折りと谷折りを加えるだけでできてしまう。又、おもしろいのは、目の部分の長さや角度を変えることによって1回ごとに表情が変わるということ。折紙は、普通折り図にしたがって、正確に一寸違わず折ることを求められますが、'顔'は少しずつ違う折り目を試すことができる。今まで知らなかった折り紙のスタイルにふれてとても新鮮でした。

Ravi Apteさん(彼は、大柄の黒人の方で、見た目からはプロの折紙作家とは想像もつきません)いわく、あじさい折りの原案者は、藤本しゅうぞうという日本人であるとのこと。その名の通り、一枚の紙からあじさいの花の中心部のように、細かい層状に連続した模様を折りあげることができます。Raviさんは藤本さんのあじさい折りに感化されて、さらに込み入った洗練されたあじさい折を創作しています。そんな彼のクラスでは、もっとも基本的なあじさい折りを習いました。

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基本的といっても折り目の多いこと! まず正方形を8 x 8の正方形に分けるようにおって、対角線を山折におって、真ん中の部分にさらに正方形を谷折りに折って。クラスには、約15人ほど人がいたのですが、みんなRaviさんの折り方についていくことに必死で、部屋中に紙を折るカサカサという音が響き渡ります。何とか最後まで折り上げて、もちろんうれしかったのですが、少々ぐったりしてしまいました。出来上がった作品は3層。Raviさんは7層のものまで折れるそうですが(もちろん層の数が増えるごとに複雑さが増し、手先の器用さが要求されます。)、4時間もかかるそうです。

コンベンションには著名なフランスの折紙作家、Nicholas Terryさんが来ていて、彼の創作に関する折り方理論を説明していました。Nicholasさんの作品は、芸術の域に達しています。狼に乗った少年や、人力車などを一枚の紙から作り出してしまうのです。その彼の折り方理論は、意外にもシンプル。(言うは安し、折るは難しですが。)

一枚の正方形にある頂点は4つで、これから折れるのは鶴のように、頭、尾、羽、羽と4つの頂点を持つもの。これを複雑化させたいときに、彼が加えるのは4つの対角線(彼いわくGraft)。これらを加えることによって、頂点の数が12個に増えます(下図)。

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従って、2つの目を頭の部分に加えたり、尾や羽の形を変化させることができるのです。この'Graftを加える'方式で、創作したというのが下の人力車。思わず見とれてしまいました。

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コンベンションには、日本と同様、折紙少年もいました! 彼の名前はサム、10歳にも満たないと思います。でも彼が折紙をする様子はとても堂々としていて、折り方は正確で早くて。サムのお母さんに話を聞いたところ、彼は去年のコンベンションで極小の羽ばたき鶴(虫眼鏡の下で、羽ばたく様子がよくわかる)を作って、人々の注目を集めたとか。堂々として、自信に溢れているはずです!

Emma Toyseさんは、このコンベンションのオーガナイザーであると同時に、有名なイギリス折紙作家の一人。Emmaさんは色んな会社から、又結婚式の時にオーナメントとして使うために、彼女の折紙作品を頼まれることがあるとか。素敵な仕事だと思います。(あまりいいお金にはならないけどね、と彼女は本音を漏らしていましたが。)

そして、彼女の
「今年も無事にコンベンションができてよかったです。皆さん、安全運転で帰ってくださいね。」
という言葉でコンベンションは幕を閉じました。

そんな風に終わった折紙コンベンション、と同時に再度火が灯った折紙への熱意。早速、帰りに立ち寄ったレスター街中の喫茶店にて、紙を取り出して、習った折紙をやっていると、横から興味深そうなイギリスのおばあちゃん方の目線が、、、
「Excuse me、あなたのやってるのってOrigamiかしら?」
「ええ、そうですよ。知ってます? 鶴とか、花とか折れるの。」
と返事をすると、おばあちゃん方は興味津々。最終的には、喫茶店でおばあちゃん方とミニ折紙教室を開くことになったのでした。

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Cafeにて、私とおばあちゃん方。